レバノンスギと叙事詩「ギルガメシュ」 ②

2014年10月11日 20:00

 

 消えた森を求めて、花粉分析

    

   先のエブラ王国があった遺跡に立ってみると見渡すかぎりハゲ山であった。ここには本当に森があったのか。証拠となるレバノンスギの花粉の化石を見つけるために、遺跡西方のアスサリエ山麓のガーブ・バレイにボーリング調査をした。(著者は、福井県の水月湖・湖底の縞模様堆積物に、日本語訳「年縞」と命名した環境考古学の提唱者)

 

        

 

  花粉分析の結果、1万年前まではレバノンスギとナラの森が拡大してきたが、その後花粉が減少する。8500年前頃に人間は、破壊したナラの森にオリーブを植え始めた。そして、☆ 6700年前 頃にはレバノンスギの花粉はほとんど消滅していた。     

 あのエブラ王国が侵略され破壊・炎上した更に2500年ほど昔に、シリア平原に面したアスサリエ山麓の森は既に破壊されていたことになる。

 

( 叙事詩「ギルガメシュ」が作られた年代は: ☆ 6700年前 にレバノン杉の花粉がほとんど消滅した頃、その時から1700年ほどあとの時期に創られたものであった。)

 

[ シュメール語で書かれた史料では、いわゆる「大洪水」後のウルク第一王朝の第五番目の王としてギルガメシュの名があげられている。その実在したことはいくつかの資料からも確かめられている。物語で伝えられたこの英雄の事蹟のなかには、実在のギルガメシュが行ったことが僅かながら反映し、示されているかもしれない

(矢島文夫)

         

 レバノンスギの悲劇 

  

    文明による森林破壊は、予想を超えた遥かな昔に始まっていたのだった。レバノンスギにとって悲劇だったのは、エジプト、メソポタミアの古代文明に囲まれたところが生育の最適地であったことである。 

  しかし、レバノンスギ の森を破壊したのは古代人だけではない。続く中世から近世にかけてキリスト、イスラム、教徒の入植・山中開発により伐り倒され、森の消滅が決定的となった。 

 

  人間は森を切り開き、悪魔や魔女を追い払い、この大地の上に人間のみの王国を作りあげることに成功したと思っていたが、それが錯覚であったことは20世紀末になってようやく誰もが気付くようになった。

  

 ギルガメシュ王が森の神フンババを殺し、森を破壊してから5000年の歳月が流れた。王は「やがて森はなくなり、地上には人間と人間によって飼育された動・植物だけが・・・・・」との言葉を残したが、その予言のとおり、いまはレバノン山脈の一端に小さなレバノンスギの森が残っているだけである。

 

            

 

 花粉粒

 花粉粒はとても強いスポロポレニンという化合物でできた膜を持っているため、酸化やオゾンの影響を受けない湖底や湿原などに落ちると何百万年でも膜は残り、またそれぞれが異なる形をしている。従って花粉の種類と量やその変化を調べることで、気候や森の変遷、地形の変化を読み取ることができることになる。

 

    参考: 矢島文夫・訳{ギルガメシュ叙事詩}筑摩書房